M&A検討企業は必読!中小企業M&Aの増加の背景と注意点とは?

従来M&Aは大企業や上場企業のみ実行する特別な経営手法と認識されていましたが、近年中小企業にも身近なものとなりM&A仲介業者やメインバンク、証券会社などを通して戦略的にM&Aの相手企業を探すケースが増えています。

今回はその増加の背景と注意点を中心に解説していきます。

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1.中小企業M&A増加の背景とメリット

現在の日本企業によるM&Aのほとんどの案件が中小企業がかかわるM&Aと言われています。この章ではその増加の背景と買収側のメリットをみていきます。

1−1.後継者問題

日本の中小企業の多くが後継者問題を抱えています。戦後日本の経済復興を支えた世代は高齢化が進んでおり、現在の中小企業は創業者オーナーが一代で築き上げた会社が少なくありません。

既に60歳、70歳を超えている経営者も多く、深刻な経営課題となっています。しかし、いざ後継者探しを進めようとしても、適した人材が確保できないといったケースが多い様です。年商10億円未満の中小企業の約7割は後継者不足というデータもあります。

継承問題を先送りしたまま、経営を続けると、廃業や雇用損失というケースもあり、早期の解決が求められています。

解決方法としては、「会社の清算」「株式上場」なども考えられますが、会社の清算は従業員や取引先、金融機関などに迷惑がかかり、創業者オーナーとしても本望ではなく、株式上場も条件の厳しさから現実的とは言えません。

最近は子供にも無理に事業を継がせないという経営者も多い様です。子供には好きな道を歩ませたいが、かといって血縁のない従業員には「能力不足」や「個人保証の肩代わりは難しい」といったジレンマがあります。

後継者探しの為に一般求人への掲載や人材紹介会社の利用はコスト負担が大きいデメリットがあるほか、自社で人材募集するには情報力が足りない、というケースもあります。

さらに最近の傾向では、高齢経営者だけではなく、若い経営者も後継者問題に直面している場合もあり、若くして事業が成功し、事業を売却して別の事業へ転換したい場合や、若くしてリタイヤメントをしたいが、後継者が見つからないと言うケースです。

社員への引き継ぎも会社の株式を買い取ることになり、資金的負担が大きく容易ではありません。多くの中小企業が出資、増資による直接金融ではなく、金融機関からの融資による間接金融で経営しているのが現状です。

この場合は会社の経営者が個人保証しているケースがほとんどで後継者が巨額債務を背負うことが非常に困難となります。

このような事情から問題解決の有効な手段として中小企業のM&Aが選ばれ、経営者に検討されているのです。最近は経営難の企業ばかりではなく、黒字企業もM&Aを検討している企業も多い様です。

余力のあるうちにベストな形で他社に譲渡するのがベストと考えている経営者もいます。

1−2.国内の市場縮小

日本の人口減少は30年後には現在より20%少なくなると言われており、人口減少は国内市場の縮小化につながります。さらに高齢化社会により、業界によっては事業を縮小せざるを得ない中小企業もあります。

特に危機感を募らせているのが、食品や化粧品などの内需産業です。国内依存度を引き下げて海外進出を模索している企業は大企業だけではありません。自社で海外へ出る資本がなければ、M&Aを活用して海外展開している企業の傘下に入ることも有効な戦略です。

実際に国内市場に依存している中小企業ほど、将来の展望が描けていない傾向があります。特に地方の中小企業は若手の有望社員も大都市圏に流れていることから顧客だけではなく、自社の運営も厳しい状況と言えるでしょう。

こうした中で、海外に販路を持つ資本力のある企業の傘下に入り、事業を安定化させる中小企業や、優秀な経営者にはいってもらい、事業再生を果たしている中小企業もあります。

現在は市場変化に対応するために様々な業界で再編が進んでおり、例えば、大手スーパーが、地方のスーパーを買収する事例も増えています。

さらに最近では医療業界でも病院や診療所のM&Aが進んでいます。広域展開、地域医療のネットワーク化が進み、M&Aは有効な攻めの一手であり、事業の発展や販路拡大、事業の再生などの点から非常に有効です。

ある中小企業のM&Aに関するインターネット調査では、30%の企業が売却先を探していると回答しており、事業を良い形で継続できるのであれば、売却したいと回答しています。

この調査からも今、国内市場の縮小化によって中小企業の間で活路を見出すためにM&Aが注目されています。

1−3.事例に見る中小企業M&Aのメリット

中小企業のM&Aの増加の背景には、売却側の後継者問題や経営問題の解決という利点がある一方で買収する企業にもメリットがあります。

それは大きく分けて成長と技術を買うということですが、以下事例を交えて見ていきます。

あるM&A案件の事例では九州、沖縄でビジネスホテルを事業展開しているA社が、同社のホテル事業を切り離し売却をして他の主力事業に売却資金を投入することを決断しました。

その後、関東のビジネスホテル事業を展開するB社が名乗りを上げ、A社と条件面で合意し、それまで営業面で弱かった九州、沖縄エリアでの事業拡大につながったという例です。

そして技術を買うという事例では、居酒屋チェーンを展開するC社が日本酒メーカーD社の株式を全部取得した例がそれに当てはまります。

D社は創業数百年の老舗酒造メーカーで経営者はすでに60代後半になっており、子供は2人とも医師で、従業員にも後継者候補がいなかったため、C社への事業譲渡を検討し、交渉に入りました。

C社の社長がD社の日本酒を試飲したところ、大変味を気に入りD社を自社傘下に置くことを決断、のれんと従業員も引き継ぎました。今ではC社の居酒屋の名物メニューとなっているそうです。このように優れた技術を求めて買収をするケースもあります。

ただ一方で、失敗やデメリットに繋がるケースもあります。特に異なる文化を持つ企業同士だと統合後の人間関係の軋轢につながりやすいのが現状です。旧会社社員同士で固まるなどグループ化するのはよく見られることです。

最悪の場合は待遇面や新しい上司との関係悪化で不満を持ち、大量離職にもなるケースもあります。当初の試算ほど、実際にはシナジー効果を得られないケースや簿外債務を引き継ぐことになる場合もあります。

2.中小企業M&Aの注意点

中小企業に限りませんが、以下M&Aを準備、実行する上で注意するべき重要な項目を挙げました。

2−1.タイミング

M&Aで重要なポイントはタイミングです。タイミングが良ければ事業引き継ぎがスムーズにいきますし、悪ければ不利な条件を飲んだり、交渉自体が流れるケースもあります。

適切なタイミングを見極めることが非常に重要なのです。

以下タイミングの種類について説明します。

①業績

業績は非常に重要なのは言うまでもありません。例えば1期赤字で事業引き継ぎを決断し、買い手と交渉成立した時点では2期赤字というケースもあります。

またM&Aの取り組みから無駄に時間を費やしていると、経営者が健康問題で入院し、経営の舵取りができなくなり、業績が悪化するという可能性もあります。特に経営者一人の手腕に頼っている中小企業は注意です。

②早期の検討、実行

M&Aは早期の検討、実行が成功の鍵です。後継者問題や経営問題を先延ばししていては解決になりません。まだ、先のことだからとか、現場が忙しいからなど理由はありますが、早期であればあるほどメリットは大きいです。

また従業員や取引先にとっても早期の検討、実行がメリットになるでしょう。準備ができていれば、市場や業績をみながら、ベストなタイミングでの売却ができます。早期に後継者問題に取り組んだ企業で、急に子供が経営をやるといった事例もあります。

また双方にとってベストなM&Aを実現するためには、相手先企業のリサーチはある程度期間を要する場合もあります。そこでじっくり見極めるためにも自社の早期の準備が必要です。

2−2.M&A準備

M&Aで事業を引き継ぐには準備が必要なことは言うまでもありませんが、その一つに「磨き上げ」と呼ばれる作業があります。磨き上げを行うことで、良い買い手が見つかることや、買い手側も売り手にとって魅力的に映ります。

何より、売り手企業からすれば、売却価格が上がることに直結するので取り組まない手はありません。具体的にどんな準備をしていけば、良いかを見ていきます。

①会社の強みを作る

会社の強みを作るには、社内から啓蒙する必要があり、魅力的な職場や現場を作ることが重要です。社内に創意工夫を推奨する雰囲気づくりが求められます。さらに、創意工夫をした従業員には正当な評価をすることも大切です。

その後は発見した強みを事業に反映することや、強みを生かした事業展開も必要です。商品やブランドイメージのUP、株主や金融機関との関係を良好にすることや、知的財産権や営業ノウハウなど無形の資産の強みも確認、強化をしていきます。

②ガバナンス、内部統制の構築

オーナー企業として会社を運営している場合は、オーナーと経営者であることの境目があいまいになりがちなので組織もそれぞれの権限や役割があいまいなケースがあります。M&Aの準備として統制のとれた組織を目指ざすと良いでしょう。

そのためには、先ずは、会社の組織を明確にして職務に対する責任を明確化することです。もし経営者に組織運営の権限が集中している場合は、管理職に権限を委譲しておきましょう。

就業規則やサービス規定がしっかりしていなければ、しっかりとつくることが大切です。

業務の流れや指揮命令系統の流れが的確で無駄がないように統制することも重要でしょう。

そして色々な側面から、社内の情報の流れの円滑化や共有しやすいような仕組みを作ることも効果的です。

③その他の磨き上げ方法

事業に必要のない無駄な資産は処分をしたり、大きな負債は返済することや、

オーナーと会社の資産の線引きをしっかりとすること(資産の賃借、社宅、ゴルフ会員権、自家用車、交際費など)、長期滞留の在庫処分、既存トラブルの解決(近隣住民、特許侵害、労働紛争など)などが挙げられます。

2−3.情報管理

M&Aでは情報管理が成否を分けるケースがあります。特に秘密保持やセカンドオピニオンの2点に注意すると良いでしょう。

①秘密保持

社外は当然として、社内にも十分に気を配る必要があり、いかに秘密を守り、情報の漏洩を防ぐかということが成功の鍵を握ります。親戚や友人、社内の役員や従業員、取引先、金融機関に対しても知らせる時期を十分に考慮する必要があるでしょう。

このタイミングを誤り、経営者が不用意な発言をして、せっかく進んだ交渉が破談になるケースもあります。

②セカンド・オピニオン

セカンド・オピニオンとは、当事者以外の意見や意見を求める行為をさします。より良い決断をするために、当事者以外の専門的な意見を持った第三者の意見を聞くことは非常に有効です。

不安を感じたら、セカンド・オピニオンに意見を求めると状況が好転することがあります。例えば、相手のペースでどんどんM&A手続きが進んでしまったとか、売買金額が妥当かどうか、他にベストなスキーム方法がないのか?など、力になってくれることがあります。

2−4.トラブル処理

M&Aでは、実施過程や成立後にトラブルが発生することもしばしばあります。そのトラブル例や対処法を見ていきます。

①M&A実施過程のトラブル

M&A実施過程では、仲介業者が活動の報告を行わない、またはレスポンスが非常に遅い、進捗の状況が見えないなどの状況が発生することがあります。

また着手金を支払ったけれど、売却先情報の開示をしてこない、担当者が頻繁に交代して依頼事項に対して未対応が続いている、仲介業者との仲介契約内容での不備など仲介業者関連のトラブルです。

この場合、先ずは仲介業者に対して十分な説明と対応の改善を求めることが先決ですが、それでも不十分な場合は、商工会議所の相談窓口や専門弁護士に今後の対応を相談することが良いでしょう。

②M&A成立後のトラブル

M&A成立後は、統合作業に入りますが、ここでソフト面(人材や企業文化の融合)ハード面(制度や仕組み、業務プロセス)やその他でトラブルが発生するケースがあります。

ソフト面では、双方の企業の文化の違いからくる意識のズレです。このズレから不平や不満が生じやすく、従業員のモチベーションの低下を招きやすいと言えるでしょう。特に売却側の人材の流出を防ぐためにも、密なコミュニケーションやケアが必要といえます。

統合にとって人材の今後のキャリアにどう利益があるのかを理解してもらう必要があります。

ハード面でも、経理、総務、人事、ITシステム、決済日や、人事評価の構築など、

など実務的な面でのトラブルも生じることがあります。担当する従業員は日々の業務をこなしながら+アルファで統合作業もしなければならず、心身ともにエネルギーが必要です。

新会社の初日から、顧客に必要なシステムが作動しなかったという例もあります。

これを乗り越えるためには、トップ経営者自ら、従業員に理解を求め、最大の支援をすることが重要です。特にIT機能などのシステム面は投資を惜しまず、外部専門家にすピーデディに対応してもらうと良いでしょう。

統合によるメリットも最大限理解してもらうように努めることも必要です。

またその他にも、会社譲渡後に、売却側オーナーが新会社へ残って欲しいと言われて残ったが、その後の待遇や人間関係から譲渡を後悔し、契約破棄を申し出て、損害賠償に発展するケースやM&A成立時点では表に出なかった簿外債務が発覚するケースもあります。

この場合は、弁護士や会計、税理の専門家と進めることになりますが、事前によく調査して防ぐことがベストです。

3.まとめ

中小企業のM&Aは、今後経営者の高齢化、国内市場の縮小化に伴い需要が増えてくるといえるでしょう。後継者問題や経営問題解決、買い手に取っても事業成長と技術獲得などメリットが多いことから検討している経営者も多いのが現状です。

一方で、M&Aは複雑かつ専門的な手続きが必要で、事前の準備やリスクを十分に考慮、調査する必要があります。M&A実施中や成立後にも様々トラブルが発生することが予想されます。

専門家や、社内、相手企業、ステークホルダーの協力と理解を得ながら、すべての関係者が利益を享受できるように進めていく必要があると言えるでしょう。

そして出来る限り事前の調査と仮説を十分に精査して考えられるリスクを潰しておくことが成功への鍵です。