徹底解説!M&A事例から見る、世界と日本企業のM&Aの違いと傾向

M&Aは毎年その取引額が拡大されていますが、欧米と日本とでは、その傾向と特徴に起きな違いがあります。今回は成功事例と失敗事例両方をみながら説明していきます。

zikeidancta

1.世界での巨額M&Aの事例と特徴

1−1.世界のM&Aの事例

世界での巨額M&Aの事例から見てみると、

①2015年ビール業界最大手の英国アンハイザー・ブッシュ・インベブによる世界第2位英SABミラーの買収。買収額は約12兆7,700億円です。

新会社は世界シェアの三分の一を占める規模となりました。企業買収規模でトップ5の規模で英国企業としては過去最高となりました。

②2015年10月にはDELLによるEMCの買収がありました。テクノロジー企業としては当時最高額の約8兆円です。

③食品業界では、2015年7月米国食品大手のクラフト・フーズ・グループとトマトケチャップで有名なHJハインツの合併で新会社は食品業界で北米3位、世界5位の規模になりました。取引価格は約7兆5,000億円です。

④2015年6月に、米国パイプライン運営会社エナジー・トランスファー・エクティが同業のウィリアムズを約3兆9,200億円で買収しました。原油、天然ガスの輸送、処理向けのインフラ運営で世界最大の企業が誕生しました。

⑤2015年5月に米国ケーブルテレビ4位のチャーター・コミュニケーションズが同2位のタイム・ワーナー・ケーブルを負債込みで買収しました。取引価格は約9兆5,000億円の巨額取引となりました。

⑥通信業界でいくと、米国通信大手のAT&Tが米国衛星TV最大手のディレクTVを約8兆円で買収。その後に米国や中南米の多くの映像サービス契約者を獲得しました。

世界市場をみると、2000年代には入ってから、年々M&Aが活発化しています。過去20年を振り返ると、1980年代後半と、1990年代から2000年にかけてのIT情報バブル期に世界的ブームが来たと言えます。

現在は第3の波がきていると言われています。欧米を見てみると、M&Aの件数や取引金額は2000年前後の波と比べてまだ現在はピーク時の回復ぶりが見られませんが、年々復調傾向です。

欧米はM&Aの歴史も日本より長いことから、日本企業にも参考になる部分がたくさんあります。それは、M&A前の入念な調査と、最初は敵対していても粘り強く交渉し、最後は有効的に変える特徴も見習える部分です。

また双方にとって、わかりやすい経営システムやビジョンの共有も特徴です。双方の企業特性や課題を事前交渉し、利害関係を公正にするために、公開型の交渉が多く取られていることも特徴です。

1−2.欧米のM&A特徴と傾向

欧米は世界でもM&Aの歴史が長く、世界市場でも最も活発に取引されている地域の一つです。その特徴は敵対的M&Aの増加です。欧米の約16.4%は敵対的M&Aの成立というデータもあります。

特に米国は世界でも最も活発にM&Aを行っている国の一つですが、傾向としては、2008年の金融危機以降顕著に取引金額が伸びています。

理由としては、継続的な金融緩和による資金調達の容易さと、米国全体の景気回復により株式市場の企業価値があがっているということが挙げられます。

さらに投資ファンドによる過去買収した企業の売却なども目立ちます。業界としては、ライフサイエンスや通信、メディア、テクノロジー、コンシューマー関連のM&A案件が多い傾向です。

2.日本企業のM&Aの成功事例

①JT

日本の大手企業のM&Aの成功事例だとJTの1999年米国RJRIの買収事例があります。これにより従来の約10倍のタバコ販売本数を獲得し、海外での販路拡大の成功例といえます。

この成功の要因は、よりマーケティング投資を強化し、パッケージやデザインの配色を統一し、世界知名度UPをあげたことが要因と言われています。自社の文化と、欧米流文化の融合が世界的なブランド力UPに上手くつながったことがその後の世界戦略に大きな影響力を及ぼしました。

また、2007年のGallaher社の買収時にはわずか100日間で統合準備を完了させたことは、JTのM&Aの経験値がいかに高いかを現しています。

その際には、Gallaher社の従業員との個別面談や給与、賞与の評価体制を統一し、社員のモチベーション管理を上手く行ったことが大きいと言われています。また多国籍従業員の言語の統一化をして従業員同士の意思疎通もしっかりと図ったことが成功の要因です。

こういったM&Aを経てJTは世界における一大メーカーの地位を確立したと言えます。

②日本電産

日本電産は、早期より戦略的にM&Aを活用し、国内外の企業を買収し、買収した赤字企業を全て黒字化したという成功事例をもっています。現体制で50社の買収に成功しており、業績拡大とグローバル化を進めています。

最近の代表的な大型買収案件は、米国の電気、電子機器メーカーのエマソン・エレクトリックから、モーター・ドライブ事業と発電機事業の買収です。

総額1,200億円といわれる過去最高取引額での買収でした。既存のPC用精密小型モーターをPC需要の低下から今後の車載や家電、商業産業用への事業転換するための戦略でした。

日本電産の買収後の基本方針は、

  • 経営者も従業員も変えないで共に経営する。
  • 買収する会社のブランドを残すこと。これにより安心感を買収先に与える。
  • 経営再建後には、支援人材を引き上げさせ、元の人員で経営をすること。

この方針が、日本電産グループとしての一体感につながり買収後も業績を伸ばしている原因と言えます。

③楽天

日本のインターネットショップモール運営の最大手の楽天によるM&Aの事例を見てみると、2000年に店頭市場に上場後、次々にM&Aで事業を拡大しています。

2002年まではIT分野の買収、それ以降は金融や通信の異業種に着手しています。日本でも積極的にM&Aを活用して事業を広げている企業だと言えます。

異業種分野では、2003年にマイトリップネット(現楽天トラベル)を日立造船株式会社より323億円で買収しています。その後、国内旅行では JTBグループに次ぎ国内2位の取引高まで成長しました。

同年には、 DLJディレクトSFG証券(現楽天証券)を約300億円で買収して、小会社化。96.67%の株式を取得しています。2004年にはあおぞらカード(現楽天カード)を74億円で買収、全株式を取得しています。現在の楽天経済圏といわれる土台ができあがったと言えます。

2010年には、イーバンク銀行の子会社化と、楽天銀行への商号変更により、国内における金融部門を整え、2013年にはアパレルECのスタイライフのTOB(株式公開買い付け)で買収。最近はフリマアプリのフリルや爽快ドラッグなどのEC事業を買収しています。

海外のM&Aも活発で2005年には米リンクシェアを約400億円で買収、米国最大の会員制オンラインキャッシュバックサイトEbates Incも完全子会社化しています。米国図書館向け電子書籍サービスOverDriveの買収も成功しています。

最近ではキプロスに本社を置く無料対話アプリのバイパーメディアも約900億円で買収し、欧米圏、中東圏、中南米圏にも多くの利用者がいる事業の買収でより世界進出を加速させています。

海外でも、アジア圏、欧州圏でも次々と買収を進めて、社内公用語も英語にするなどグローバル化を進めています。

④ソフトバンク

ソフトバンクも日本では大規模買収で事業拡大している代表的企業です。M&Aを戦略的に活用しながら、グローバル化を進めてきました。代表的なのが、2006年に英国ボーダフォンを約1兆7,500億円で、2013年には米国スプリント社を1兆8,000億円で買収しました。

特に米国3位のスプリント社の買収で日米の顧客基盤は日米市場で最大となりました。これは双方にとってもシナジー効果が非常に高いM&Aと言えるでしょう。

その他にも、日本テレコムや福岡ダイエーホークス、イーアクセス、ガンホーなど大型案件や話題性のある買収をしてきた企業です。

遍歴を見ると、株式公開当初はソフトウェア流通事業でしたが、現在は巨大通信企業に変貌しています。ADSLへの新規事業参入に始まり、日本テレコムやボーダフォン買収で通信事業の割合を増加させています。

株式公開当初は1,000億円の売上高が20年で8兆6,700億円と驚異的とも言えるスピードで事業拡大しており、その現在の主力事業が買収した事業といえます。

ソフトバンクのM&Aの特徴が巨大出資をして、経常赤字を出しながらも、のちに莫大な利益で成功しているという点と言えます。

特に日本ではまだ無名だったヤフーを見出し、一億ドルの出資をして日本最大手の検索エンジン事業に成長させ、中国のECモール運営最大手のアリババグループにも出資して株式の31.9%を保持して筆頭株主となっています。

現経営陣の強力なリーダーシップと卓越したマネジメント力が成功の要因なのは言うまでもありません。

3.日本企業のM&Aの傾向

日本のM&Aの傾向を見ると、業種別では、欧米と比較して、通信やメディア、テクノロジーの割合は低いと言えます。割合が高い業種は金融、自動車関係、機械工業の割合が高いことが特徴です。

今後は、TMTと呼ばれる通信、メディア、テクノロジーの割合が高くなる可能性が高いと言えます。ちなみに買収の対価として株主に株式と現金のどちらが割り当てられているのかと言えば、株式交換の割合が低下して現金の割合が高くなっています。

90年台後半には株式交換の割合が6割強あったのに対して、最近では3割程度です。この傾向は欧米でも同様です。

理由としては、世界的に企業のキャッシュフローが潤沢にあることや、株式公開していないプライベート・エクィティ・ファンドと呼ばれる投資ファンドによる取引が増大しているからと言われています。

機関投資家や、個人資産家は近年資産運用のリスク分散からこうしたファンドによるM&Aを活発化させており、日本はまだ1割強ですが、今後外資系、国内系問わず、投資ファンドによる取引は増えてきそうです。

日本のM&A市場はまだまだ発展途上と言われており、世界市場におけるウェートは7%程度と言われています。これは世界の名目GDP、株式市場における日本の割合が10%と考えるとまだ発展の余地があるといえます。

今後は法整備、環境などのインフラ整備から今後海外企業による日本企業買収や、逆のパターンも増えてくる可能性が高いと言えます。

4.日本企業のM&A失敗事例

①丸紅が米国穀物大手のガビロンを買収して、その後経営不振に陥ったのは有名な話です。ガビロンの中国事業不振が響いて、2015年の3月期連結決算で1,200億円の損失を計上しました。

この原因は中国政府による寡占化の恐れからのペナルティーが大きく響いたと言われており、中国の制度からのリスクの読みが甘かった事例です。

②2009年パナソニックが三洋電機を4,000億円投じて買収しました。その後追加投資を行い、2010年に完全子会社化しますが、2013年3月期個別決算で6,000億円以上の損益を計上することになりました。ちなみに総投資額は8,100億円以上と言われています。

③富士通が英国ICLを1890億円で買収、株式の80%を取得し、完全子会社化。計算機で世界第2位になるが、業績は悪化、2,900億円の損益を計上しました。総投資額は3,500億円以上です。

④セブン&アイホールディングスのそごう、西武買収で、2006年の1,300億円を投じました。株式取得率は65%です。累計2,300億円の投資も670億円の損益を計上しました。

日本企業が海外の企業買収に失敗するのは、デューデリジェンスで発見したリスクに対しての適切な対応ができなかったというケースや、想定したシナジー効果と実際の効果が違いすぎたことが理由としてあります。

また日本特有の隠蔽主義も指摘する識者もいます。経営陣以外はトラブルを共有せずに隠蔽し、対応が後手にまわってしまうケースです。

また海外企業との企業文化や経営観の違いによる相互理解の不足が挙げられます。海外企業は基本的に利益優先、独占主義、格差主義の傾向にあるのに対して、日本企業は相互信頼、協調主義、長期経営主義が根付いています。

この違いが双方の交渉や買収後にリスクとなって顕在するケースがあります。

5.まとめ

以上のように、欧米のM&Aの事例と日本企業によるM&Aの事例とでは、歴史の長さや文化で多くの違いがあります。

日本企業が海外へ進出する場合は、海外販路をもつ企業とのM&Aが有効ですが、その国のカントリーリスクを十分に考慮しなければいけません。虚偽の財務報告などもあり失敗するケースもあります。また文化や経営観の違いも考慮すべきでしょう。

M&Aの成功には、戦略的フィットの精査や事業に的を絞ること、あらゆるリスクを考慮していくことが重要です。また買収後の従業員に対するフォローも最重要です。

今後の企業の戦略の一環としてM&A需要の高まりは続くと言われています。今後も様々な角度からの対策が求められています。